韓国遠征日記


2003年8月31日(日)

8月30日(土)に雨のプサンを離陸して、成田にもどった。

最初に、韓国に渡ったのは、いつのことやら、まだハレルヤというチームがあって、ソウルにそのハレルヤを訪ねていったときが最初である。だから、1970年代の最後か1980年代の初めか?それからサッカーでもそれ以外の仕事でも、幾度か訪韓したが、初めて、桐蔭と一緒に、韓国を慶州(きょんじゅ)からソウルに上って行くようなかたちで、転戦していったときは、まだ横浜協会の西海さんが、生きていて、ひさしぶりの対面を果たした頃であった。

桐蔭の最初の韓国遠征は、長谷部やらがまだ2年生であったか、こっぴどく韓国の高校にやられて、第1戦のあと、李とさー明日どうするか?そこで、ボールキープに光明を見出すしかないということで、議論した覚えがある。

日本学園の訪韓前の練習でも、高校生におおむね下記のようなことを言った。

韓国の高校生と練習ゲームをやるということの意味は、けっして正月選手権の都大会の「ための」シミュレーションではない、ということ。

サッカーは「世界のスポーツだから」異なる国の異なる民族のひとたちが、また日本人とは、いささか異なった哲学でサッカーというものを「やっている」のかもしれない、それを味わってくれればよしとした。

コーチの思いでは、あまり都大会にむけて、参考になるだろうということは、最初からなかった。

まずグラウンドは芝生である。
ルール解釈もやや違う。
サッカーのスタイルも違うはずである。

この解釈はそもそも桐蔭を連れて行ったときの記憶からくる。

26日火曜日は、旅行日。

前回、FC杉並を連れて、南海に行ったとき、コーヒーにだけは、苦労したので、わざわざ、ハンド・キャリーで、コーヒー・メーカーを持参したのだが、間がぬけていて、成田空港で預けた車のなかに、スター・バックスの粉やらフイルターを置いてきてしまった。

もっともそうでなくても、どういうわけか持参の変圧器が調子悪く、南海へわざわざソウルから、ソウルスター・バックスの粉とフイルターを届けてくれたひとがいたのだが、やれうれしや、と水をいれて、コーヒー・メーカーのスイッチをオンにしたのに、しばらく点灯したのち、パイロットランプが消えてしまうということで、結局300ウオンで、求めた、自販機のコーヒーで我慢した。

27日水曜日は午前中、練習。

午後晋州高校との試合予定が豪雨のため中止。
ここから、予定がいろいろと変わってきて、

28日木曜日午前中、まずFC南海と練習ゲームをやることになった。

FC南海は、韓国では珍しい、クラブチームでまだ最上級生が高校1年生で、ウオームアップゲームとしては丁度よいかなと思えたがそれにしても弱すぎた。3セットやって、10点以上のゴールをあげた。

個々の局面ではFC南海も、まともなのだが、どういうわけか、まず
1) すぐにバックパスにたよる
2) ラインのまわすスピードがおそろしく間がぬけていて遅い
3) ラインからでてくるボールはほとんどサイドに出てくる、読みやすい。
4) ラインの守備はいったん、ひいて、そこであげてオフサイドトラップにたよる。
5) 攻撃は3トップ
6) ボランチがほとんど、こちらのあがりめに最初の一撃をあたえにこない
というようなことで、実はこれらの点が後のゲームでも多かれ少なかれ、共通の特色として、今、韓国高校でのはやりらしかった。

25人の選手を連れて行ったので、第1セットをAにまかせ、残り2セットはBが、楽しく芝生のグラウンドでサッカーをやった。

食事はいつもバッフェ・スタイル、量も多いし、味つけは、日本人に合うように、香辛料やら、韓国味噌のぐあいはすでに研究済みで、選手の、食もすすんでいる。

午後は慶尚情報高校とゲームだが、
1) まずラインでまわすパススピードはおそろしくはやい。
2) しかしラインからだしてくる、ボールはほとんど、サイドにロングかミドル、中央のハーフにはまずつけない
3) 攻撃は3トップ
4) 守り「から」攻撃へのきりかえを意図的に速くしている
5) ボランチが、やはりこちらのあがりめに最初の一撃を与えに来ない
6) ラインはいったん後退、次に、「あがって」オフサイドトラップねらいとなる。

前半はこの相手のサッカーのやりかたが、つかめなかったがこちらの守備も相手の単調(だが、身体的にも強く、はやい)な攻撃を読めて、0-0に終わったので、後半はこの「さがってからあがる、相手のラインをいかに攻撃するか、ということだと判断して、こちらのあがりめを交代させた。

普段、東京では、このあがりめの選手が「なにになやんでいるのか」といえば、彼を「パス起点」だと観察して、ダブル、トリプルで押し寄せる、一応ボランチなのだろうが、そう言う相手のプレスを「どうするか?」ということになっている、ところが、その問題はない。ボランチ「いるのだが」前をむかしてくれる。

ただそのあとの「パスのだしかた」に悩むところとなった。

交代して起用した2年生は、そこらへんは悩まない。
前をむけば、ドリブルにはいって、そこからパスをねらう(というときこえがよいが、ときに、ドリブルしすぎということもむろんある)

この起用があたったかどうか、わからないが、もうひとつイーブンゲームでは最後に「ミスがでたほうが負け、ミスをすかさず拾え」という地味な指摘をハーフタイムにしたが、そのとおり相手が前半はけっしてハーフ同士のプレイをしなかったのが、後半少しずつハーフがやる、サッカーをしだして、で、そこでミスがでて、それを日学にさらわれて、1-0さらに、右クロスを1年生フォワードにきめられて、2-0で勝った。

自分のチームを好きに評価してもしかたがないといえばしかたがないが、桐蔭のころと比べると、最初の韓国遠征で韓国高校チームに勝つということは、たとえ静岡、あるいは当時の帝京でもなかったと思える。
これがなにを意味するのか?

ありていにいえば、韓国の指導陣も世代交代ですこし「かっこうのよいことを強調しだしたのか?」と思える、それは、FC南海、いくら1年生主体とはいえ、3セットで15点いれられて「いるぼん=日本チーム」に負けてしまう、というのはこれはおかしい、だって毎日あさから晩まで練習しているし、南海といっても日本人はわからないだろうがあの、車ぶんくんの出身地でもある、サッカー盛んだし、このFC南海だって、やがてはKリーグに「行くんだ」という大志のもとに作られたチームなのだが、どうも韓国民族特有の「あたりの強さ」とか「走りまくるスタミナ」とか日本人に負けたら、海峡に身を投げろ、帰ってくるなといわれていた頃の、闘争心は感じなかった。
ワールドカップと、ヒデイングの影響がそうさせたのか?それはわからん。わからんが、 慶尚情報高校もあきらかにへばっていた。


29日金曜日、最初にゲーム予定であった、晋州高校とのゲームがリセットされた。

28日のあいての慶尚情報高校は以前はこの晋州高校に勝てなかったが、何かの大会でやっと勝てたとかただしこの晋州高校のほうが名門、チームのなかにアンダー17か18の、代表2人いるとかいう。
確かにたちあがりからモダンサッカーを展開
1) ラインのまわしは、かならずしも、はやさにこだわっていない、ラインを構成する選手が、単調に、ライン→ラインのパスを速くすることだけを心がけているのではなく、ハーフにつなげるチャンスがあるかどうかを「さぐるために」見た目には、慶尚情報高校よりは遅く感じるが、合理的ではある。

2) だからライン→サイドもあるが、ライン→中央のハーフもある。日学のトップやらあがりめがこのラインでのパスが遅くなったと見て、「とりにいくと」ずばっとロングを蹴ったり、要は、こちらの読みをしぼらせはしない。

3) ラインは4人だがその前の6人は流動性を指示されているようで、足元にもらっては、パスアンドゴー、ワンツーを読まれれば、3人目にパスという教科書どおりのパス、それでも日学に読まれれば、サイドがあがってくるか、逆のサイドへ大きくかつここが大事だが、正確なロングを蹴っては、日学の守備を後手に誘う。だからサイドへふられて、あきらかに間に合わない間合いでこちらがよせていくと、さっとクロスをあげてしまう、あきらめていればひきつけて、ドリブルもするという次第であった
前半、この相手の、攻撃をどうつぶすか、わからないうちに、1点さらにコーナーで2-0にされたので、ベンチから守備修正の指示というよりどなり声を発して、とにかく0-2のまま前半を終えさせた。

前半のこちらの欠点は4-4-2の相手にこちらは、3-5-2だがそれはどうでもよくこちらがピッと笛が鳴って、攻撃で優位にたてば、こちらはシステムそもそも、ラインは3人で、その前のハーフも基本的にポジションレスということになっていて、またそれでよいわけだが、そうではなく、相手が攻撃で優位になったときに、いったんその攻撃をくいとめるという、そういうかたちは「なにか」ということをいつも散々言っているのだが、また実践できなかったということになる。

こちらのウイングハーフがその場合は相手の誰をマークするのか?また3トップできたなら、3バックでいるのか、だれがひとりあまってこちらが4人のラインになるのか?その場合中盤で相手をどう拾うか=マークするのか。

そこらへんが試されたわけで、別に試合前もサーベイをするわけではないから、「ふらーっと、はいっていて」そこをつかれた、ということだろう。

後半、守備をどうするか明確にして、また昨日と同じにこちらのあがりめが

4) いったんさがって、それから昨日よりも徹底してオフサイドトラップをやりぬきにくる相手のラインにどう攻撃をしかけたらよいかノーアイデアのあがりめをはずして、同じ手配にした

5) やはりあがりめを徹底的にマークしてくるということはないので、あがりめはフリーになる、相手ラインの中央突破を試みながらも第3タイミングでのこちらのサイドチェンジもこのフラットに有効で、決定的なチャンス2度も含めて、勝てたゲームであったが、結果は1-3で破れた。

昨日の情報高校に比べたら、こちらがゴール前もらったというような場面でもつまり相手のフラット完全に崩した、サーあとは足を振るだけの場面で、キーパーもふくめてバックのからだのはりかた、からだのききかた、などにこちらの晋州高校のほうが昔日の韓国サッカーの伝統の良さを見た思いであった。
ひさしぶりに、バックの強さということを感じた。

夜は、得たいがしれないミスターパクなる人物に招待されて、南海名物の刺身などを食べた。
あとはきゅうりの千切りをひたしたそーじゅ(焼酎)そーじゅのオンパレード。

酒を呑んでいるあいまも、この3試合に見られた、韓国高校サッカーのトレンド?果たして観察違いかそれとも、そこからなにか日本にもどっても、有効なレッスンを得られることがあるのかずっと、頭の隅にこびりついている。

確かに、フラットライン守備で最初に「相手が前をむくことに、神経質にならないで」「ラインを維持すること」に神経をつかえば、その瞬間は、攻撃側が一見優位なようで、単調なこちらの縦パスはオフサイドだろう、かつそのままひかれても、ラインの裏側のスペースがどんどん小さくなっていくだけでこれもまた攻撃側にとって不利になっていく、いわば相手に誘われるということだろう。このことは久我山のころ藤原監督とずっと話していたことで、あったがそれでも、ボランチには神経をつかわせたものだが、韓国はそんな事に無関心というように感じた。

そのかわりそうだとすれば、晋州高校のように6人は思いきった攻撃をしかけられる。それは確かに魅力的な考えではある。なぜなら日学はちがうのだが、4人でバックを構成したときのメリットは横幅一杯に相手がいて結局単純に、サイドにボールを運んでも、こちらのアイデアはなくなる、そのことはわかっているので、攻撃としては相手の4人に、こちらの4人が(どうランするかは別に)関与して混乱をねらうでしかないという思いがあるからだ。

するとこちらが3-5-2だとゲームのなかでのスタミナの消耗やら、守備に神経をつかうあまり、ある瞬間に、相手のラインにこちらの4人が立ち向かっている、という戦術をなかなかに実現しがたい。

晋州高校は、日学と考えは違うが、ポジションチェンジを徹底して、4人のバック以外はみんなが「どこにでも行く」しというように見える。だから相手を崩すかどうかその理屈はポジションチェンジ、と言うことで良いと思えるのだが、そのときの反転、守りにはいるその守り方をどうくふうするかをそうやって仮説だが、別にボランチなんかにこだわらないというならば、理屈のうえではポジションチェンジ大胆にできるわけだ。

ここらあたりもヒデイングの影響かなときがついたのは、こうやって東京にもどってきてからであった。
(この項終わり)